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馬場あき子歌集 (短歌研究文庫13)

鬼lab.

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1,320円(税込)

本の説明

かつて馬場あき子が『鬼の研究』で見つめたのは、現実社会のはずれで社会的弱者が叛逆的存在となって荒ぶる、そのありさまと心の経路でした。馬場さんは、〈鬼〉とはひとの「情念」であり、心に一匹の鬼を飼うことによって自分なりの軸をもって生きることができるといいます。そして初期の歌集「飛花抄」に収められたのは、自分の心の内側に〈鬼〉への回路がひらけていることを見出す歌群でした。「夕照りにつたなきものら飛ばんとす翅も穂絮(ほわた)もわが修羅に似て」「見上げたる森の高さに月ありて悔しきこころ鬼も泣きしや」「鬼の思想・黒衣(くろこ)の思想・樹の思想狂気冷えたるのちのさびしさ」「われや鬼なる 烙印ひとつ身にもつが時に芽ぶかんとして声を上ぐ」「われのおにおとろえはててかなしけれおんなとなりていとをつむげり」「いつの日の花やすらいや安らわぬ鬼ぞいま舞う素手の怒りに」「狂うよりなお堪えてあるかなしみに鬼扇(おにおうぎ)夏の牡丹くれない」「ほのかにも鬼は居るなりさくら花咲きゆく日日の花の麗(もゆら)に」「褐色の般若一面目病みつつ春を見ており無韻の窓辺」「白つつじあやにくにして燃ゆるかなゆえありてわれは人を裏切る」「白れんげもえたつ昼をひとり鬼日向の芝にうしろむきおり」——。外には〈美徳〉を湛えているかにみせながら、内にはささいなことで妬み、憎み、争う心に揺らいでしまう〈度しがたき悪業〉を隠している。ひとは誰でもそうした〈阿修羅〉や〈鬼〉のような存在かもしれません。けれども、愛おしい思いの内奥に、相反する慈悲と破壊の葛藤が撞着しながら生きている限り、〈鬼〉は倫理的な心を持った存在なのではないでしょうか。その愚直な倫理的葛藤のない心に〈鬼〉は育たないのですから。(0号)
馬場あき子歌集 (短歌研究文庫13) 画像1

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