思い出トランプ
あるケミストの本棚
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649円(税込)
本の説明
自分が向田邦子さんの名を知ったのは飛行機事故でだったと思う。テレビで観ていた「寺内貫太郎一家」の脚本家だったと、後から知った。
まずはこの「思い出トランプ」を読んで欲しい。
向田邦子さんの好物と知ってから水羊羹が好きになった。美味しいもの好きな人も向田邦子が好きになるだろう「向田邦子の手料理」もきっと欲しくなる。
本書「解説」より
連作短編のようだから、完結をみてからでもと(直木賞の)授賞を見送ろうとする委員もあったにかかわらず、山口瞳、阿川弘之両氏と私の三人が強力にねばった日のことがわすれられない。わずか二十枚前後の短編三作であったけれど、誰もが真似できぬ辛苦の世界へ入って彫(きざ)みこんでいる、向田さんの世界がみずみずしい花のように見えたからである。それがみとめられて受賞となり、やがて一年も経たないうちに、飛行機事故で亡くなられてみると、人生無常の思いが、いっそうつよくなり、向田さんの文学は、読者を打つこととなった。
――水上勉「向田さんの芸」